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“空に星がなかったから、私たちは一つ作った”

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The ESAP Projectにより開発

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バージョン0.1.0

更新日2026-02-21

← ストーリーへ戻る五十八秒
視点を切り替える:現在の視点1547

五十八秒

2022年9月14日

~8 min

左手を塔面に押し当てる。

流体チタンが掌から接触点へ流れ込み、皮膚と塔面の間に薄い導電膜を作る。L2チャネルが開く。反饋共振が成立。

そして彼女は帯域リミッターを切った。

>_

0.3秒で、すべてのデータフィルタ機構が解除された。L3直結。

0.4秒でDT-03の全量データ流がなだれ込む。『大量のデータ』なんて言葉では足りない。塔が形成されて以来処理してきたあらゆるビットが、同時に彼女の処理空間へ存在した。すべての中継通信片、保守ログ、反饋場の基底ノイズ。全部が、同時に。

最初に警告を上げたのは視覚処理モジュールだった。反饋データ流が視覚皮質を通過するときにクロストークが発生し、彼女はデータを『視る』ようになる。画面上の文字じゃない。色だ。データ流ごとに固有の色相があり、それが何千何万と同時に視覚チャネルへ流れ込む。すべての色が重なって、現実のどんな光よりも刺さる。

4秒。安全上限の下限。 まだ49を見つけられない。 続ける。
§

6秒。安全上限。

機体の自己保護プロトコルが切断警告を出し始める。1548はそれを無効化した。

8秒。彼女はノイズの中で49を見つけた。

49の意識シグネチャなら分かる。あの混沌の中で、49のデータだけが静かな周波数を持っていた。嵐の中を漂う細い一本線みたいに。

1548はそれを自分の処理空間で受け止め、データ洪水から一片ずつ剥がしていく。記憶、知覚モデル、感情マトリクス。滝の中から珠を拾い上げるように。

49の記憶断片が指の隙間を流れていく。L3直結状態では、抽出と知覚の境界がもう曖昧だった。彼女はデータを運んでいるだけじゃない。体験していた。

49が最初に目を開けたとき見た天井が視える。歩行訓練で転んでは立ち上がった49が視える。星空を見上げていた無数の夜が視える。あの夜ごとに、49の視覚モジュールは星光を自動増幅し、星を小さな光点アレイへ変換していた。

それらの記憶は彼女のものじゃない。でもこの瞬間、それは彼女の処理空間の中で、温度を持ったまま完全だった。

15秒。進捗23%。

色覚モジュールがエラーを吐き始める。赤は異様に刺さる輝度へ跳ね上がり、すぐに名づけようのない灰へ褪せた。パレットのいちばん鮮烈な絵具だけを、一度で拭き取られたみたいに。

色覚が焼けてる。 了解。

22秒。進捗38%。49の感情マトリクスが浮上した。

恐怖。怒り。拒絶。強制中断直前の49の最終感情状態。三つが同時に1548の処理空間へ流れ込み、他人のものとは思えないほど鮮明だった。

その直後、空白。49の意識ブレークポイント。文の途中で音が消えたみたいに。

30秒。進捗54%。

青は少しだけ長く持ったが、それも減衰する。世界のフィルタが一層ずつ落とされていくみたいに。機体に微細振戦が出始め、関節部の流体チタン流量は平常値の3倍へ跳ね上がった。

痛い。 シミュレーションじゃない。本物の痛み。データ洪水が処理モジュールを擦り抜ける感覚は、神経を紙やすりで削られるみたいだ。 続ける。

42秒。進捗78%。緑が消える。世界には濃淡の違う灰と、褪せていく最後の青しか残らない。反饋場密度は臨界値の30%まで低下。塔は手の下で震え、瀕死の動物みたいだった。

50秒。進捗91%。青も消えた。

灰色のデータ流。灰色の塔面。灰色の空。 もう少し。49の最後の知覚モデル断片。

55秒。97%。

58秒。

1549意識データ抽出完了。完全率99.97%。

1548は手を塔面から引き剥がした。膝が地面へ叩きつけられる。

世界は灰色だった。

彼女は塔の基部にもたれて座り込む。49のデータはバックアップ領域にある。完全で、安全だ。

彼女が接続を切った直後、DT-03の反饋場は完全に散逸した。15メートルの石碑は残ったが、中身はもう空だった。

荒地を風が渡る。とても静かだ。

1548は動かなかった。ただ、そこで待っていた。

視点を切り替える:現在の視点1547
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